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キジも鳴かずば撃たれまい!
キジも鳴かずば撃たれまい!
Penulis: 北園れら

ハローニューエンド 1

Penulis: 北園れら
last update Tanggal publikasi: 2026-07-06 19:03:57

さつ─じん【殺人】:①人を殺すこと。「殺人罪は死刑または無期もしくは五年以上の拘禁刑に処する」②ヴィーガニズムの視点での肉食。「動物性食品の大量生産は無差別殺人に等しい重罪だ」

③裏社会において一定の条件を満たすと免罪符が付けられる行為。転じて、日常茶飯事。

────────────────────

現実は銃で、たまに暴発する。

意気揚々と他人事に首を突っ込むのは知性ある人間の特権であり娯楽だ。食い扶持にもならない些事《さじ》に飛び込み、仕切り、罵倒し、集《たか》り、やがて満足感という名前の無を取得する。

身に有り余るほどの無を取得した者の残り寿命はオーバーフローを起こし、やがてアンダーグラウンドから死神が靴音を響かせてやってきた。

人はそれを殺し屋と呼ぶ。

「……はぁ、はあっ、クソッ!」

貸し倉庫トランクルームはこの手のやり取りに最適だった。一人が物を預け、もう一人が物を取り出す。あくまでも葉っぱ・・・ではなく鍵を扱う売買。

悪くないしのぎのつもりだった。たった一晩で壊滅した組に残留するよりはマシな夢が見れる。

はずだった。

「なんで、なっ、俺が、こんな目に……!」

じたばたとはためく薄っぺらいモッズコートにはすでに風穴が開いていた。男は運良く避けたつもりだったが、殺し屋にとっては警告の証だ。

外れたのではなく、外した・・・のだと。

「かんっ、関係ねえだろ俺はよ!? 他にも売人やってるやついくらでもいるって!」

「それがそうもいかねんだ」

殺し屋は一見してどこにでもいる中年男性の顔つきだった。しかし服装は黒いシルクハットに葉巻を燻らせたタランティーノ映画じみた格好で、愛銃にはハリー・キャラハンと同じ44マグナムが込められていた。

「口封じが俺の最後の仕事でな。しみったれた役回りだがそれなりに満足してる」

「待てよ、なあ……! なにを」

「あばよボウズ」

スミスとウェッソンが火を噴き、男の額の風通しが少し良くなる。最後から数えて二番目の仕事を終えた殺し屋はふうと紫煙を吐いた。

リボルバーを収めて携帯電話に持ち替える。

「俺だ。次であんたともお別れだと思ってな」

体温が失われていく手の甲に葉巻をぐりぐりと押し付けて火を消した。殺し屋は端的に言葉を交わし終えると、東京の海に沈む夕日を見つめる。

任された仕事はあと一つ。同じように人《ひと》見《み》組の元構成員を追い回して殺して終わり。

随分とあっけないものだ。昔は“始末屋の杉下”と恐れられたものが、今ではしがない極道お抱えのしがない殺し屋風情。

ちゃっ、と杉下はS&Wを片手で構える。定年には少し遅れたものの殺しの腕前だけは誰にも遅れを取らない自信があった。

「……フッ」

だがそれもおしまい。裏社会《アンダーグラウンド》を抜けて気ままに暮らす良い機会だ。

引退したら……そうだ、熱海にでも家を建てよう。何にも縛られないスローライフも悪くな

ドンッ。

────────────────────

現実は銃で、撃たれたら死ぬ。

「……意外と隙だらけだった。噂の始末屋」

念のため伝えておくが、この物語は引退を表明した中年の殺し屋が最強過ぎて自由気ままなセカンドライフを送れないみたいな類の話ではない。

杉下は死んだ。背後から一発だった。

そういうことなので、切り替えていこう。

貸し倉庫トランクルームはこの手の仕事に最適だった。人気もなければ遮蔽物だらけで、こうやって白昼堂々銃声が鳴っても海の彼方に溶け込んでいくだけ。

「写真よし、証拠よし。送信……っと」

画像ファイルが世界中のサーバーを経由して相手に届く数十秒の間、賽原《さいはら》花《はな》火《び》は防弾繊維製ジップパーカーを脱いで死体の前で手を合わせた。

花火は殺し屋である。

歳は十六歳。しかし物心ついた時から殺し屋業に勤しむベテランだ。業界に十年ほど身を置けばどんな殺し屋にも流儀と呼ばれるものが芽生えてくる。ある者は殺しの前に決まった食事を摂り、またある者は人を殺す度に着ていた服を捨てる。

花火にとってのそれがこの黙祷である。殺し屋から普通の女子高生に戻るためのルーティン。

ただし不登校で引きこもり。花火は食事の前後にいただきますとごちそうさまを言うようにごく自然な動作で手を合わせ、ゆっくり瞳を開けた。

「よし」

あくまで日常のルーティンであり、用が済んだら死体への関心も失せた。特殊清掃業者《クリーナー》の手配をスマホで適当に済ませると、花火は鼻歌混じりに東京湾を後にした。

指定暴力団人見組専属殺し屋“始末屋の杉下”の殺害が花火の受けた依頼だった。報酬は口座振り込みで五百万。だというのに大した指定《オプション》もなく証拠は死体の顔写真のみで結構。

「……ふ、ふふふふ」

我ながら良い案件を見つけたものだ。苦手な早起きをした甲斐があった。思わず笑みが溢れる。

今どき死体の写真なんてAIでいくらでも捏造できるが、花火はちゃんと・・・・やる殺し屋である。シンギュラリティでも再現できない人の手の温もりを大事にするタイプの殺し屋である。

死体が冬の空気で冷え始めた頃、花火は動き出した。東京湾を離れ、京浜東北線で向かったのは北区赤羽のはずれにある閑静なケーキ屋。

「いらっしゃいませー」

「えと……バターロールケーキのクリーム抜き」

「はーい。奥の席にどうぞー」

「どうも」

秘密の部屋へと続く鍵が開く音がした。

顔馴染みの店員に会釈して、花火は焼き菓子のコーナーの隣にある扉からスタッフルームへと通じる廊下に出る。二つある共用トイレの片方を開けると地下へと続く階段が広がり、そこを降りてアルミ製の安っぽいドアを開けた。

そこに広がっているのは銀行の窓口や市民病院の待合室を彷彿とさせる殺風景な施設だった。

名を、大日本殺合ころしあい組合赤羽支部。

冗談みたいな名前だが戦前から存在する最古参の殺し屋向け共済組織。わかりやすく一言で表現するなら、殺し屋のギルドだ。

「あ、花火さん。お疲れ様です」

「……お、お疲れ様、です」

すれ違い様に挨拶を交わした相手も、受付で揉めている中年のサラリーマンもソファでスマホをいじっている若い女性も全員殺し屋。

もちろん花火自身も。

(あの人誰だっけ……)

誰が生きて誰が死んだかも曖昧な業界につき、顔は覚えるだけ無駄な気さえしていた。そもそもコミュニケーションは得意ではないし、得意ならこんな仕事をしている理由はない。花火はさっと整理券を取ってソファの端に身を寄せた。

月末の組合は特に混み合っている。なぜかといえば、そもそも殺し屋組合の支部窓口は所属する殺し屋の依頼と報酬の管理を行っているのだが、いつの時代も報酬というのは現金に限らない。

土地だとか権利だとか宝石だとか金塊だとか、管理の面倒なモノを差し出す客は後を絶たない。現金と違って表に嗅ぎつけられにくいメリットもあるが、貰っても嬉しくないものが多い。

「……受付番号百十番、こちらにどうぞ」

「!」

組合はこうした有形報酬の換金作業を代行し、決まった日にはマージンを抜き取っただけの現金を調達してくれる。それが月末。

「ふんふん、ふんふふーん……」

月に一度のお楽しみ、殺し屋の給料日である。〈始末屋の杉下〉の報酬五百万は現金一括払いなのですぐに用意してくれるだろう。花火は露骨に嬉しそうな顔で椅子に座った。

「登録名は?」

「殺し屋カビ、です」

今月の花火《カビ》の獲得報酬は一千万円。マネーロンダリング済みで非課税の一千万。

そうだ、旅行にでも行ってしまおう。三泊四日で行き先は熱海がいい。内気で引きこもりだって誰とも関わらない一人旅は好きだ。梅園に温泉、海の幸の食べ放題。年寄り臭い楽しみ方だが、たまには外に出るのも悪くな──

「……カビ?」

「え、そうですけど」

銀縁眼鏡の男性係員はパソコンを叩きながら「あいつだわ」と同僚に耳打ちした。

「先月組合に顔出しました?」

「いや……忙しくて」

「ライセンスは? 今日持ってきてます?」

「持ってきてない、です。どこに置いたっけな」

花火は首を横に振ったら「でしょうね」とため息が返ってきた。不穏。

「カビさんで間違いないですね」

「は、はい」

「あなたの殺し屋免許ライセンスがブラックマーケットで不正に転売されていたのが見つかりました」

「……はい??」

「つきましては違約金と強制退会手続きを」

「ち、ちょっと待って」

冒頭の言葉を繰り返すようだが、現実はたまに暴発してこちらに致命傷を負わせてくる。

「なん、え、売ったって何!?」

「あんたの殺し屋免許売り飛ばしたろ。おかげでコピー品含めて何枚ものライセンスが闇市に出回ってる。殺人が合法になる魔法のカードが」

「……へ?」

「マジやってくれましたねお前」

もちろん花火に心当たりなど一つもなかった。

殺し屋ライセンスとは公的空間における殺人行為の免罪符で、通報で駆けつけた警察官ですら黙って回れ右させられる本物の悪魔のパスポート。もちろん組合に認められた殺し屋しか所持することは許されないし、売るなんてもってのほかだ。持つだけで人間を文字通りの無敵の人に変えてしまう禁断のアイテムなのだから。

……嵌められた? 誰が? 何のために?

「というわけでですね」

「いやいやいや、わたしそんなのやってな」

「ライセンス密売は御法度中の御法度。加えてカビさんは免許不携帯のまま今月だけで九人殺してるんで相手方との契約違反も加味して……えー」

こういう時のお役所仕事は異様に早い。

電卓を叩く音が響き、止み、数字が差し出される。ケタを正確に数えるまでもなく冷や汗がぶわっと噴き出るが構わず係員は死の宣告を下した。

「クビです。それと直ちに違約金として二十億円の支払いをお願いします」

「にじゅッ……」

「規則ですから」

「ち、ちなみに」

「何か?」

「リボ払いって」

「仮にできたとしてもするなよ」

カードの盗難に気づいた際は速やかにカード会社または銀行に連絡し利用停止手続きを済ませ、必ず警察に届出を出すことが重要である。

警察が機能している社会ならの話だが。

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Komen (1)
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朝日
大好きな小説がいろんなプラットフォームで読めて幸せです。改めて、連載おめでとうございます!
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